第212話

綾人はため息をついて、奈々が自分で転んだとは言わず、ただ「弥生が奈々を押したって根拠あるのか？ただ弥生が奈々に最も近いからだろ」と言った。

「それは一つだが、もう一つは、皆がそう言っているから」と聡は言った。

「皆がそう言っているから、それが真実になるのか？」

「それは.......みんながそう言っているから。もしそれが真実でないのであれば、真実は何？」

聡は綾人を見つめて、何も言えなかった。

「綾人、わからないんだけど、なぜいつも弥生を庇うんだ？」

「私が弥生を庇うなんて、君がいつも奈々を庇っているじゃないか？」

ちょうどその時、バーテンダーがお酒を持ってきた。綾人は一杯を持ち上げて、軽く揺れた。特製のお酒は光の下で、きらめくようになった。

「主観的な思いに縛られると、他の可能性を簡単に見逃す恐れがある」

ずっと黙っていていた瑛介は、それを聞いて、瞳孔をわずかに縮めた。

一方、聡は綾人を不気味にじっと見ていた。

「何それ、深い話をしていて、主観的な思いって何」

綾人は頭を傾け、微笑んだ。

「奈々のことを女神としていて、彼女が他人を陥れるようなことをしたら許せる？」

それを聞いて、聡は信じられなさそうで目を丸くした。「絶対に有り得ない。奈々はやさしい人で、他人を陥れるようなことをするわけがない」

「それが君の主観的な思いだ。奈々のことが好きなために、いつも彼女が高潔で、悪いことをしたことがなく、そして間違いもしないと感じている。そして、少しネガティブなことがあれば、それは全部他人のせいにする。つまり、その時彼女に最も近い人だけで、弥生のせいにする」

聡：「いつそんなこと言った？」

「そうじゃない？」綾人は彼を平静に見つめていた。

「違う！」聡は激しく否定した。「綾人、僕がどんな人か知らないのか」

「そうじゃなかったら、なぜ証拠を求めずに、弥生が奈々を押したと決めつけたのか？なぜ証拠を求めずに、瑛介にそんなことを言うんだ？」綾人は目を輝かせて、鋭くポイントに指した。

「それは.......」

聡は何も言えなくなった。

もっと恐ろしいことに、彼は綾人の言ったことが正しいことに気づいた。

そして自分の言ったものは、簡単に覆された。

彼は実際に目撃していなかった。その日彼は用事が